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2003年12月2日号
世界価値増す平和憲法――社、共協力で「護憲ハト連合」を
私は、憲法は国の基本の理念を明確にした根本の原理の法だと考えている。現実は理念とちがっているかも知れない。また理念は現実において実現していないかも知れない。しかし、だからと言って、すぐさま現実にあわせて理念を捨てよ、その理念を基本原理とした憲法を改めよ―にはならない。それでは本末転倒だ。
今、世界各国の憲法は民主主義と自由をその基本の政治理念としている。しかし、現実に民主主義と自由をいずれの国もどれだけ実現しているのか。たいていに破れ目、不完全、未完成がある。しかし、そうかと言って、その現実にあわせて、民主主義と自由を基本理念からはずせ、憲法を変えよ―になるか。ならない。
第一条に「イタリアは労働に基礎を置く民主的共和国である」と理念を提示したイタリア憲法はすばらしい憲法だ。しかし、イタリアの現実はこのみごとな理念の実現からまだまだ離れたところにある。しかし、だからと言って、現実にあわせて、憲法を変えよ―の動きはない。
日本の憲法第25条にも、「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」というすばらしい理念の提示がある。しかし、西宮に住む私が大阪に出かけるたびに重い気持ちになるのは、公園で「ホームレス」諸氏のテントの列が並んでいるのを見るからだ。しかし、現実がこうしたものだから第25条をやめよ。この第25条をもつ憲法を変えよ―とはならない。ならないはずだ(私はこうした主張をもつ人格低劣な改憲論者は、日本の政治家のなかにまさかいないと信じる)。
改憲論者が目のカタキにする憲法の平和主義についても同じだ。今や世界は戦争に充満して来ている、アメリカ合州国は巨大な軍事力を行使、あるいはその圧力で世界支配をさらに拡大、強化しようとしている、「正義の戦争」を称しながら大義のない戦争をこのアメリカがイラクにやってのけたあと、このアメリカがつくり出した現実に追随してわが日本はイラク派兵を今行おうとしている―こうした手きびしい現実に平和主義が何の役に立つのか。この主張はよく聞くが、現実にそぐわないから、そう見てとれるからと言って、どうして平和主義を捨てる必要があるのか。私にはこうした主張はまさに本末転倒の主張のように見える。
理念を無視してただ現実に追随することは政治ではない。政治は現実を理念に一歩ずつでも近づける努力であり、手だてであり、技術だ。独裁政治はいざ知らず、民主主義政治はそうしたものとしてある。そして、そういう政治のありようを根本的に法的に定めたのが憲法だ。
日本はかつて「殺し、焼き、奪う」歴史をアジアに展開して、アジアの民に戦争の惨禍を持ち込んだ国だ。いや、それだけではない。その結果として自ら「殺され、焼かれ、奪われる」歴史をもち、戦争の惨禍を背負い込んだ国でもある。その二様の体験を通して、戦後の日本は武力によって問題は解決できない、非武力、非暴力の手だてと努力によってのみできる―の認識を原理とした平和主義を憲法の基本の理念とした。
今、泥沼に入ったイラク情勢、パレスチナ問題の手づまりほど、武力によって問題解決はできないという平和主義の理念の正しさが事実として示されて来ている事態はない。今、事態は、唯一の問題解決への方策は非武力、非暴力の手だてと努力によるものでしかあり得ないことを、刻々と示しつつある。それは、もはや今、平和主義がただの非現実的な理想ではなくなり、唯一可能な問題解決の具体策を産み出し得るきわめて現実的な理念としてあることだ。
ここで平和主義を基本の理念とした憲法――「平和憲法」をもつ日本が国際的にすべきこと、すべきでないことははっきりする。すべきでないこと、すぐさまやめるべきことは戦争の当事者アメリカの尻馬に乗っての自衛隊のイラク派兵である。すでに戦場化しつつある土地に軍隊を派遣することはさらに戦争の火ダネを増やすことでしかない(自衛隊派兵の予告だけで、すでに二人の日本人外交官は犠牲になった)。すべきことは、問題解決にむけて、他の志ある国と(たとえばドイツ、フランスと、あるいは北欧諸国とも)手を結んでの非武力、非暴力の手だてと努力を今すぐにでも始めることだ。これは「平和憲法」をもつ日本が今まさにすべき国際貢献である。
この「平和憲法」に重要な価値が国際的にも出て来たときに、ふしぎなのは、過日の選挙にあたって、自民党と公明党、民主党と自由党が小異を捨てるどころか大異も捨てて合同して選挙に臨んだのに対して、「共産」「社民」の両党が同じように「護憲」を主張しながら何の協力態勢もとらなかったことだ。これでは両党ともに「敗北」は当然の結末だ。今からでもおそくない。両党協力して「護憲ハト連合」をつくることを強く私はすすめる。ほかの政策はいくらでもちがってよい。ただ一点、「護憲」のハトの志で協同して動く。その一点において、たとえば、自民党の老政治家も加わり得る開かれた連合だ。「連合」の第一目標は――イラク派兵をやめさせる。 |
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